PRODUCTION NOTE

  • 映画化へのスタート

    「現代に生きる女性の繊細な心の機微を描く筆致、そして一見女性的なテーマでありながら、男性にも響く深いテーマ性とサスペンス要素。これはエンターテイメント映画として十分に成立するだろうと直感しました」そう原作の印象を語るのは、KADOKAWAの二宮直彦プロデューサー(以下二宮P)。島本理生の小説『ファーストラヴ』の映画化を、オフィスクレッシェンドの小林誠一郎プロデューサー(以下小林P)が堤幸彦監督で考えていると聞き「是非ともご一緒したい」と迷わず名乗りを上げた。映画化に際して島本が出した希望は、「堤監督ならではのエンターテイメントにしてほしい」ということ。「島本先生の作品の中でもこの小説は特に、エンタメとしての見せ方を意識して書かれたものだと思います」(KADOKAWA高木智香プロデューサー/以下高木P)原作者の意向をくみ取りつつ脚本を書き上げたのは、数々の名作ドラマを手掛けてきた浅野妙子。「北川景子さんもおっしゃっていましたが、読み終わった後に人生の澱がとれたような清涼感すら感じる。素晴らしい脚本でした」(二宮P)

  • 主演=北川景子の覚悟とキャスティング

    主人公の由紀には、今や日本を代表するトップ女優の1人となった北川景子。北川にとって念願の堤組での主演。トレードマークのロングヘアを本作のためにばっさりショートに切り、作品についての意見交換も積極的にP陣と行う。「ご本人が主演として作品を背負う覚悟もすごいし、プレイヤーでありながら俯瞰で作品全体を見ることのできる非常に意識の高い女優さんだと思いました」(二宮P)由紀の過去に関わる迦葉には、「嫌になるくらいいい男!」と監督も絶賛する中村倫也、事件を起こした張本人=環菜には「憑依型にして実力派」と二宮P以下全員が太鼓判を押す、若手人気女優・芳根京子、由紀の夫で迦葉の兄=我聞には「監督の盟友」(二宮P)の窪塚洋介という豪華キャストが揃った。またそれぞれに問題を抱えた親達を演じた木村佳乃、高岡早紀、板尾創路の怪演、他にも石田法嗣、清原翔らが環菜に絡むキーパーソンとして鮮烈な印象を放っている。

  • 堤組のスタッフワーク

    撮影は2019年10月1日にクランクイン。監督とは初タッグだった二宮&高木両Pは、堤組のスピーディーかつ無駄のない合理的なスタッフワークに驚きを隠せない。現場で突如生まれることも多い監督のアイディアに迅速に対応するスタッフ、撮影した素材を同時に現場で編集していく独特のシステムにより、これまでに撮ったシーンをつないだ映像をキャストと共に毎朝見る風景も堤組では日常である。監督ベースとつながったスピーカーから俳優部を含めた全部署に的確に伝えられるという風通しのいいシステムなど、“堤組独自のスタイル”は多数。またこれだけヘビーな題材を扱っているにも関わらず、「暗い雰囲気の現場が嫌い」と語る監督の現場は意外なほど明るい。本作のファーストカットとなる環菜の父親殺害現場では、大学校舎の俯瞰を捉えるドローンを撮影カメラマン(唐沢悟)が両手でキャッチ。そのまま魚眼窓まで導くというアグレッシブなカメラワークを見せ、「アクション映画みたい!」と沸くスタッフ。編集された映像を見ながらも、時折ジョークを飛ばす監督と、思わず笑ってしまう俳優陣のやり取りに現場が和むことも度々。センシティブなシーンを演じることになった子役の少女達へのケアも万全で、笑顔の絶えない現場となった。

  • 長回しの決断

    「あえてカット数で勝負しているところはある」と公言する監督だけに、膨大なカットを撮り切るための“カット割り”が毎回用意される堤組。だがそんな監督をもって「これは(カットを)割れない」と、ほぼワンカットのいわゆる長回しでいくことを決断したシーンが3つあった。由紀が法律事務所で迦葉と口論になり過呼吸に陥るシーン、由紀が病院で我聞に過去のトラウマを打ち明け号泣するシーン、そして由紀と環菜の最後の面会室での対峙シーンだ。「ワンカットで見せることの方が強いということは、十分知っています。でも私はもともと映画界の人間ではないし、自分のカットワークでその感情を上回るものを作り出したいと思い、ドラマ、映画の壁をなくしながらその戦いをずっと続けてきました。でもこれらのシーンに関しては、自分の思い描いていたカットワークではどんなに手練手管を尽くしても勝てない!と。数十分のリハーサルでそれを目の当たりにしたんです」(監督)
    「監督の現場で最初に段取りをやってから、あのような決断をするのは本当に珍しいことでした」(小林P)特に撮影も後半にさしかかった由紀と環菜が面会室で対峙するシーンでの長回しは、制作陣にとっても印象深いものとなった。スタートの声がかかると、唾を飲み込むのもためらわれるほどの緊張感がスタジオを支配。「お二人の涙ながらの迫真の応酬に、今自分は奇跡のような瞬間に立ち会っているという実感があり、スタジオにいる全員にものすごい高揚感がありました」(高木P)カットがかかり一発OKが出た後、芳根と抱き合いながら「芳根ちゃんでよかった。芳根ちゃんじゃないとできなかった」と感謝の念を伝える北川。そんな女優2人の姿を見ながら、奇しくもこの日誕生日を迎えた監督は「最高のプレゼントをもらいました」と笑顔を見せた。

  • リアルな法廷/涙のクランクアップ

    11月11日、クランクアップとなったのは環菜への判決が下される法廷シーン。美術スタッフが霞が関の簡易裁判所に何度も出向き、リアルなサイズ感でスタジオ内に再現した法廷セットのクオリティに、法律監修の髙橋宗吾弁護士も「本物そっくりです」と感嘆の声を漏らす。この日は弁護士=迦葉としての見せ場が多々あるため、朝から発声練習&セリフの確認に余念のない中村。北川は傍聴席でのリアクション芝居がメインとなるが、心地いい緊張感を崩さない。そして最後の最後まで涙を流し続けたのが芳根。実はここで小泉裕二を演じる石田とは初対面。法廷に証人として裕二が登場した瞬間、さっと顔色が変わる環菜。カットがかかった瞬間監督のもとに走り寄り、「すごく苦しい!裕二くんが……」と号泣する芳根に、「素晴らしかったですよ。ありがとうございます」とねぎらいの言葉をかける監督の声は優しかった。
    そしてついに迎えたクランクアップ。さきほどの涙が幻かのようにケロリと笑顔で挨拶する芳根とは対照的に、「普段は泣かないんですけど!」と言いながらクールな北川が涙を見せる。「初めての感情、新しい自分に出会わせていただけました」と時に涙で声を詰まらせながら挨拶する姿は、美しく強い座長そのものだった――。

  • Uruの歌声が作品に寄り添う

    残酷で美しい物語を彩る主題歌は、シンガー・Uruの「ファーストラヴ」。監督が以前、知人に薦められて聴いたUruのエモーショナルな歌声と世界観に魅了され、「本作にぴったり」と感じたことから今回のオファーへと繋がった。併せて劇中挿入歌「無機質」もUruが手掛けている。「女性の心情に寄り添うという一番の目的はありつつ、人間のもう少し深い部分に突き刺さる楽曲を希望していました。今回は挿入歌もありますが、個人的に点描のデートシーンなどに曲をつけるのは苦手なんですが、今回あえてそれにトライできたのはUruさんの素晴らしい楽曲のおかげです」(監督)また劇伴は、イタリアの作曲家、アントンジュリオ・フルリオとの初タッグ。「同じテーマをアレンジを変えながら繰り返していく……それによって感情表現のすべてが違って見えてくるという、私がずっとやりたかったことが初めてできました」(監督)

(取材・文/遠藤 薫)